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名古屋高等裁判所 昭和41年(ネ)477号 判決

控訴人(原告)

酒井銕太郎

代理人

楠田仙次

被控訴人(被告)

名古屋製油株式会社

代理人

青柳虎之助

兵藤俊一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴人の当審予備的請求を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は原判決を取消す、本位的請求として、「被控訴会社の昭和四〇年一一月二七日の株主総会の左記決議はこれを取消す。

第一号議案の決議

堀内忠男、堀内須磨両氏所有に係る当社の賃貸中の名古屋市中村区堀内町三丁目二番地宅地四六〇坪を昭和四一年六月三〇日限り返還する。

第二号議案の決議

昭和四一年六月三〇日当会社を解散することを内定する。」

予備的請求として「被控訴会社の昭和四〇年一一月二七日の株主総会の左記決議は無効であることを確認する。

第一号議案の決議

堀内忠男、堀内須磨両氏に係る当社賃貸中の名古屋市中村区堀内町三丁目二番地宅地四六〇坪を昭和四一年六月三〇日限り返還する。

第二号議案の決議

昭和四一年六月三〇日当社を解散することを内定する。」

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却並に当審予備的請求棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述証拠の提出認否は左記のほか原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

控訴代理人の陳述

第一≪中略≫

二、決議について特別の利害関係ある株主の決議参加

堀内忠男、同須磨は特別の利害関係を有することは明白であるに拘らず決議に加つたものであるからこの者の決議権数を控除して結果に影響なき場合に於ても決議は違法である。(東京地裁昭和八年七月一七日判決、法律新聞第三五八七号、名古屋高裁昭和三〇年九月一四日判決下級民集六巻九号二〇一二頁)

第二≪中略≫

二、被控訴会社の株主総会が本件決議以後更に同一趣旨の決議を繰返しても同一違法の決議たることには変りはないのであるから本件決議の取消又は無効確認の利益は存在する。又その違法性、不当性は株式会社にとつては重大顕著であり、綜合的裁量によりなお違法不当でないと断ずることの事情も存在しない。

被控訴代理人の陳述≪中略≫

三、被控訴会社は昭和四一年六月二一日被控訴会社事務所において臨時株主総会を開き本件の株主総会で決議した第一号議案の決議と同一の決議及び昭和四一年六月三〇日解散する旨の決議をした。右決議の方法には何等の違法がなく何人からも右決議取消の訴の提起はなく確定しているのである。

四、以上の事情であるから仮に本件総会の決議の方法に瑕疵があつても今更これを取消しても全く無意味であつて控訴人及被控訴会社の権利の消長に毫末の影響も生じないのであるからこれが取消を求むることは権利の濫用であつて棄却を免れない。又仮にそうでなくても裁判所は商法第二四七条によつて提起された株主総会決議取消の訴訟において合理的な判断の下に右取消請求を認容するか否かを決し得べく、たとえ株式総会招集の手続、又はその決議の方法が違法であつても株主総会における議事の経過その他から判断してその違法が決議の結果に異動を及ぼすと推測されるような事情の認められない本件においては控訴人の本訴請求は棄却を免れない。証拠≪省略≫

理由

被控訴会社はその肩書地に本店を有し資本金一〇〇万円、発行済株式総数二万株、株主数四五名の株式会社であつて控訴人は被控訴会社の一〇株の株主であること、被控訴会社はその招集した昭和四〇年一一月二七日の臨時株主総会において、第一号議案堀内忠男、堀内須磨両氏所有に係る当社の賃借中の名古屋市中村区堀内町三丁目二番地宅内四六〇坪を昭和四一年六月三〇日限り返還する件、第二号議案昭和四一年六月三〇日当社を解散する事を内定する件を夫々順次に総会に上提して出席株主一同異議なく可決されたものとしたことは当事者間争がない。

<証拠>によれば右総会の決議においては出席株主(委任状とも)一五名、此の議権数一六二二七個の行使によつて決議されたこと、堀内忠男、堀内須磨の議決権数は被控訴人主張の如く(イ)堀内忠男の個有持株数二七四四、(ロ)同人の父亡堀内修一郎所有名義株数三九三五株及祖父堀内金兵衛所有名義株数一四四〇株、此の合計五三七五株中三五八四株を相続所有しているのでその相続株三五八四株、(ハ)堀内須磨所有株数一八九五株以上(イ)(ロ)(ハ)合計八二二三株であつて右忠男、須磨ともに右総会に出席し右両名の右議決権数八二二三個は前記出席株主議決権数一六二二七個に包含されかつ行使されたことが認められる。

そして商法第二三九条、三四三条所定の総会の決議をなすには発行済株式の総数の過半数に当る株式を有する株主の出席を要するところ本件総会の決議においては総議決権数二〇、〇〇〇個のうち前記の如く一六、二二七個の出席があつたのであるから所謂定足数の要件はこれをそなえていたものと謂わなければならない。しかし、同法第二三九条第五項は総会の決議につき特別の利害関係を有する株主は議決権を行使することができない旨を規定し、同第二四〇条は右株主の議決権の数は出席した株主の議決権の数に算入しない旨を定めているところ前記総会の決議事項からみて右忠男、須磨は特別の利害関係を有する株主であるからその議決権八二二三個は決議に際しては前記出席議決権数一六二二七個から控除されるべきであり従つてこれを控除した八〇〇四個の議決権行使によつて決すべきであるに拘らず前記の如く利害関係議決権の行使を含めて一六二二七個の議決権行使によつて決したのは決議の方法が法令に違背したものと謂わなければならない。

然しながら、成立に争なき乙第五号証によると被控訴会社は乙第一号証の前記本件総会の決議の後再び昭和四一年六月二一日臨時株主総会を開催し第一号議案として昭和四一年六月三〇日被控訴会社を解散する件、第二号議案として乙第一号証本件総会の前記第一号議案と同一である借地返還の再決定の件を可決する旨の決議をしたこと及右総会においては総議決権数二〇、〇〇〇個の過半数を占める一八、一四四個の議決権出席があり、そのうち堀内忠男、堀内須磨の両名及その議決権を除き九七八六個の議決権の行使により、控訴人外三名の議決権計三八個の反対があつたのみで他は凡て賛成して決議されたことが認められる。そして此の乙第五号証の総会の決議に対しては商法第二四八条所定の期間内に何人からも決議取消の訴の提起はなかつたのであるから右決議は既に取消の方法がなく、従つて右と同一事項の決議をしている本件乙第一号証の総会の決議を取消すことは全くその利益がない。≪中略≫

本件の決議取消の請求については前記の如く後に同一事項の再決議された乙第五号証の総会の決議が既に取消すべく方法がなくその内容も前記説明と同一理由で無効とさるべき理由あるものではないから結局いまや本件決議取消を求める利益はなくなつているのであつて棄却を免れない。

よつて本件控訴を棄却すべく民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条に従い主文のとおり判決する。(県  宏 渡辺門偉男 可知鴻平)

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